ビジネスモデルはどう構築する? ー 価値提供モデルの構築法
- 羅針盤倶楽部 事務局

- 5 日前
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更新日:3 日前

【今回のご相談】
イノベーションにはビジネスモデルが重要であると聞きますが、ビジネスモデルをどのように構築すればよいのでしょうか?
リーンスタートアップやデザインシンキング等の考え方を適用すればよいのでしょうか。

戦略構築のアプローチとしては「競争戦略の構築」「新カテゴリーの創出」(「ブルーオーシャン戦略」がその代表)と並んで「新ビジネスモデルの構築」というものがあり、それがお尋ねのものに当たります。
実はビジネスモデルの構築には幾つか「流派」があって、そのやり方は確立している訳ではありません(確立していると云えるのは3つの中で「競争戦略の構築」だけです)。
今回は基本となるべき考え方と、なるべくオーソドックスとされるやり方をベースに解説したいと思います。
ビジネスモデルの定義
まずは「ビジネスモデルって何?」という定義を共有しましょう。さもないとボタンの掛け違いが生じかねません。色々な人が好き勝手な解釈でビジネスモデルを語るため、一般の人にとっては何となく分かったような分からないようなもの、それが「ビジネスモデル」という代物だと私(回答者)には感じられます。
以下に代表的な識者による定義を3つほど挙げます。
「ビジネスモデルは、顧客への価値提案を支えるロジック、データ、エビデンス、ならびにその価値を提供する企業の収入とコストの構造を表現する」 (UCバークレー校 デビッド・J・ティース教授)
「ビジネスモデルは、4つの相互に関連づけられる要素から成り立っており、それらが一体となって価値を創造して届ける。それらは、顧客への価値提案、収益方程式、鍵となる経営資源、そして業務プロセスである」 (戦略コンサルタント会社・イノサイト社 マーク・ジョンソン会長)
「ビジネスモデルとは、どのようにすれば会社がうまくいくかを説明するストーリー。優れたビジネスモデルは、顧客は誰で、その価値は何かに答えてくれるし、また、どのように稼ぐのか、そして、どうすれば適切なコストで顧客に価値を提供できるのかの経済的なロジックを示してくれる」 (『ハーバード・ビジネス・レビュー』戦略担当編集者、ジョアン・マグレッタ氏)
いかがでしょう。米国の知識人って、どうして回りくどい表現が好きなのでしょうか。
「もっと簡潔に言えんのかい!」と突っ込みたくなりますよね。
ビジネスモデルとは『価値の創造・提供の仕組み』
ここでは、最もオーソドックスかつ分かりやすい表現で定義したいと思います。
ずばり、ビジネスモデルとは『価値の創造・提供の仕組み』と(価値の回収である)『儲けの仕組み』を組み合わせたものです。
つまり、ビジネスモデルには『価値提供モデル』と『収益モデル』の2つのカテゴリーがあるというのが一般的な解釈です(ついでにいえば、この2つ以外にも、垂直統合vs水平分業や請負生産、購買代理など『産業における役割分担の仕方』など他の側面にも注目することもあり得ます)。
ちなみに、新たなビジネスモデルを考え出すのは新しい事業や新しい市場向けだけとは限りません。従来市場向けでも、新たなビジネスモデルを構築することで競争を勝ち抜いたり収益を改善したりすることがあり得ます。
コロナ禍でお客さんが来店してくれなくて困った飲食店がデリバリーに活路を見出そうとしているのがその一例です。ターゲット顧客と商品は従来と同じかも知れませんが、価値の提供方式と収益の回収方法は違っていますよね。
価値提供モデルの構築法(1)
どんな顧客にどんな価値を提供するのか?
まず一つ目の、価値提供モデルの構築法から考えてみましょう。2つのパートに分けて考えると分かりやすいと思います。
それは、
「どんな顧客にどんな価値を提供するのか?」というWhom & Whyのパート
「どうやって価値を提供するのか?」というHowのパート
この2つです。
この「どんな顧客にどんな価値を提供するのか?」を定めるためには、想定顧客が何に困っていて、どうなりたいか(何が欲しいか)を突き止める必要があります。
このやり方にも大きく2つのアプローチがあり、それらを適時組み合わせることがよくされています。
①分析的なアプローチ
1つめのアプローチは「分析的なアプローチ」です。
想定顧客はどういう人で、どういう習慣や行動パターンを持っているのかという「想定顧客のプロファイリング」をやった上で、どんなシーンでどんなことをやっているときに、どんな困り事や不安に向き合っているのかという「想定顧客の課題(もしくはペイン)の可視化」に進みます。

前者の「顧客のプロファイリング」は中核的な顧客像を定義するためのもので、基本中の基本です。特殊なフォーマットがなくてもできると思いますが、目指す事業やサービスにとって意味を持たせるため、どういう項目を挙げるかが鍵となります。
顧客像が多様になりがちでマーケティング政策の検討時に困ってしまうことが多い消費財の場合は、さらに代表的な顧客像を1人の仮想客に具象化する「ペルソナ設定」までやってしまうことがごく普通です。
後者の「顧客課題の可視化」での典型的な出発点は伝聞(または個人的な見聞)であることが多く、想定顧客が「〇〇した際に××で困っているらしい」という断片的な情報を膨らませて、「じゃあきっと、多くの人がこういう場面でこんなことになっているんだろう」という想像(妄想?)を形にするところから始まります。
その際に想像(妄想)した課題の可視化には、質問者が言及している「リーンスタートアップ」の手法である「エンパシー(共感)マップ」や「カスタマージャーニー」(この場で説明すると長くなるので、それぞれは書籍またはネットで調べてください)といったやり方が適用できますし、他の手法でも色々と独自のものが紹介されています。
ちなみにこれらの可視化フォーマット通りにしなくても、ある程度は同じ結論に辿り着きますが、検討過程を他のメンバーと共有するのには便利です。
②行動観察

想定顧客が何に困っていて、どうなりたいかを突き止める2つめのアプローチは「行動観察」です。
つまり想定顧客にマッチする人やグループの近くで実際の行動を観察し、疑問点やその時々の感情を掬い取るためにインタビューして、気づきや洞察を得るというやり方です。これは質問者が言及しているデザインシンキングのアプローチですね。
この際に観察者の気づきを整理・発展させるためによく使われるのが、QC活動でもおなじみのKJ法であり、「ストーリーボード」(これもネットや書籍で調べてください)や「エンパシーマップ」などのツールであり、そして他の人と共有するためには「カスタマージャーニー」もよく使われます。
お気づきのように「分析的アプローチ」と被る作業も少なくありませんが、これは両方のアプローチが互い(または他の手法)のよいやり方を取り入れて発展させてきたからで、ごく自然な成り行きなのです。言い換えれば、分析的アプローチと行動観察アプローチは出発点が違うだけで、目指すゴールも途中の整理・可視化手法も似たようになっているのです。
こうした作業を通じて、想定顧客が何に困っていて、どうなりたいか、その課題を解決することで顧客にもたらされる価値は何か、という顧客ニーズを突き止めることができる訳です。
この「Whom & Why」のパートはすべての土台になる部分ですから、表面的なものに終わらないよう、しっかりと深く突っ込んでやることを心掛けてください。
価値提供モデルの構築法(2)
どうやって価値を提供するのか?
さて、次はそれらの顧客ニーズに対し「どうやって価値を提供するのか?」という課題解決法、すなわちHOWを考案します。これにも大きく分けて2つの考え方があります。
それは「積み上げアプローチ」と「パターン適合アプローチ」です。
①積み上げアプローチ

前者は、ここまで積み上げてきた「顧客の課題」に真正面から向き合って知恵を出せば解決仮説が出る、そしてそれが実際的か本当に有効かを検証し(この検証のやり方については本稿の範囲を超えるので割愛します)、必要に応じて何度も解決仮説を修正するという、極めて真っ当なアプローチです。
したがってそのための方法論の中心は様々な発想法です。ここまでに出てきた「ストーリーボード」や「カスタマージャーニー」を作成している途上でも、「じゃあこうすればいいじゃないか」というアイディアは湧いて出てきますし、さらに知恵を絞る必要があればブレインストーミングで議論するというのがオーソドックスなやり方です。
それを支援・加速するための整理フォーマットも幾つか提案されておりますので参考にしてください(「バリュープロポジション・キャンバス」などのフレームワークが知られていますので、書籍やネットで調べてください)。
②パターン適合アプローチ
一方、「パターン適合アプローチ」というのは、ビジネスモデルの既存パターンを当該分野に当てはめるとどんなやり方になり得るかを考え、それが本当に解決法となるかどうかを検証するアプローチです。
いわば「答が先にあり、それが質問に合っているかを後で考える」という、一見アクロバティックまたはちょっと邪道気味な、よく言えば逆転の発想です。でも意外と実践的でもありますので、「積み上げアプローチ」でいい仮説が出てこないときには我々も実践しています。

ビジネスモデルの既存パターンは実に多く、例えば私(回答者)の知人である今枝昌宏氏が『ビジネスモデルの教科書』(東洋経済)で整理・選別しているだけで31もあります。
早稲田ビジネススクールの根来教授らが最近出した『この一冊で全部わかるビジネスモデル』(SBクリエイティブ)に至っては何と63ものパターンを挙げています(中には「これがビジネスモデル?」と疑問符が湧くものが幾つもありますが…)。その中から収益モデルの数を引いても、数十あることに変わりありません。
これを一つひとつ自分たちが検討する事業やサービスに当てはめて、具体的なビジネスモデルに落とし込めるかを考え、さらにそれが現実的な解決仮説となりそうかを素早く判断するというのは、正直なところ素人にはなかなか難儀だとは思います。
プロのコンサルタントでも慣れていない場合には一種の「苦行」になりかねませんが、仕事なら何とかするでしょう。
可視化の重要性
ところで、「積み上げアプローチ」であろうと「パターン適合アプローチ」であろうと、解決仮説は可視化する必要があります。検討の過程でアイディアを整理し構造化し、誰もが理解できる形に可視化することでコミュニケーションや検証ができるようになり、そのお陰で仮説を精査しブラッシュアップすることができます。
そのための整理・可視化の手法が幾つかあり、その中で最も有名なのが「ビジネスモデル・キャンバス」と呼ばれているツールです(著作権者はアレックス・オルターワルダー、イヴ・ピニュールの2人)。
具体的には『ビジネスモデル・ジェネレーション』(翔泳社)を参照されたいのですが、関連の流れが描きづらく、正直、実用性に欠けると判断しております(個人の感想です)。実際、発表用以外に検討のためにちゃんと使われている例をほとんど見ません。
むしろ先にご紹介した『この一冊で全部わかるビジネスモデル』で提案されている「戦略モデルキャンバス」なるもののほうが数倍使い勝手がよいと感じます(同じく個人の感想です)。

収益モデルの構築
ここまでの価値提供モデルの構築を検討する中で、顧客が自社の商品・サービスのどんな部分に愛着や利便性を感じてくれるのかというポイント、そして自社・顧客・パートナーとの関係性はある程度固まってくるはずです。
あとはその関係性をうまく活用してどうやって顧客が気持ちよく、そして継続的に(モデルによっては間接的に)お金を支払ってくれるかを設計するだけです。
まずは商売の流れからのオーソドックスな素案を一つ二つ考えましょう。通常、ピクトグラムという絵文字を使って登場人物(企業など)の関係性とサービス・物・お金の流れを表現します。
続いて、先の価値提供モデルの中で触れた「パターン適合アプローチ」の適用可否も探りましょう。このアプローチは収益モデルの構築においてはより実用的です。なぜなら精々10前後しかバリエーションがないので、どれが使えるかという検討を素早くできるからです。
例えばよく知られている「広告モデル」や、以前にこの欄で解説した「サブスクリプション」といった具体的なモデルを頭の中で描いてみて、それを当該のビジネス案に当てはめてみると使えるかどうか、比較的素早く判断できると思います。
可能性があって面白そうなものだけ残して、あとはオーソドックスな収益モデルとも比較しながら絞っていけばいいのです。
まとめ:
ファクトとロジック、知識を総動員すべし
ではここまでの話を整理しましょう。次の4点が主旨です。
1)ビジネスモデルとは、「価値の創造・提供の仕組み」である『価値提供モデル』と、「儲けの仕組み」である『収益モデル』を組み合わせたものである。
2)価値提供モデルの構築法パート1としては、「どんな顧客にどんな価値を提供するのか?」(Whom & Why)を定めるため、想定顧客が何に困っていて、どうなりたいかを突き止める。分析的アプローチで顧客のプロファイリングと顧客の課題の可視化を行ってもよいし、行動観察アプローチで始めてもよい。
3)価値提供モデルの構築法パート2としては、「どうやって価値を提供するのか?」(HOW)を考案するため、「顧客の課題」に真正面から向き合って知恵を出す「積み上げアプローチ」か、ビジネスモデルの既存パターンを当該分野に当てはめる「パターン適合アプローチ」で解決仮説を発想した上で、その実現性と有効性を検証する。
4)収益モデルの構築法としては、自社・顧客・パートナーとの関係性をベースにオーソドックスなモデル素案を考えた上で、「パターン適合アプローチ」の適用も探って、残った素案を比較し絞る。
以上です。試しに一つ、取り組んでみてはいかがでしょうか。
文・日沖 博道(経営コンサルタント・パスファインダーズ株式会社 代表取締役社長)
※本記事は、The Owner「経営者のお悩み相談所 〜経営コンサルタントが一問一答!〜」に掲載された内容をもとに再構成したものです。
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