競争優位の源泉が見つからない場合にとるべき行動・対策とは
- 羅針盤倶楽部 事務局

- 1 日前
- 読了時間: 11分

【今回のご質問】
組織コンサルティングの会社を経営しています。
VRIOの観点で競争優位の源泉がどうしてもみつからない場合(模倣困難性がない等)、とるべき行動・対策をどのように考えるのがよいか、アドバイスがありましたらお願いいたします。

【日沖】
組織コンサルティング会社をご経営とのこと。
具体的なメニューや手法は分かりませんが、親近感が湧きます。
そこで今回は戦略的考え方からのアドバイスと、コンサル会社たる弊社(新規事業の企画・開発を中心とした「戦略コンサルティング」という分野です)の経験をお話ししたいと思います。
「競争優位」にはどういうものがあるのか
:ポーター理論から
まずは前提条件として「競争優位」にはどういうものがあるのかを確認しましょう。
多くのビジネスパーソンが何となく当たり前と思い込んでいますが、この認識のすり合わせは意外と重要です。
ある程度経営学を勉強された方ならご存じなのが、経営学の大家、ハーバード・ビジネススクールのマイケル・E・ポーター教授が提唱した「3つの基本戦略」です。
すなわち、
(1)コスト・リーダーシップ
(2)差別化
(3)フォーカス(集中)
この3つこそが戦略の基本パターンを規定するとした考え方です。
この3つの要素のどれを重視するかで基本的な戦略が決まるとしたのです。
これが世の経営者や戦略研究家(学者やコンサルタントを含む)に強烈なインパクトと刷り込みを与えてきたのです(こういう言い方をする理由は後で分かります)。
でも少し突き詰めて勉強された方なら理解していると思いますが、「3つの基本戦略」というのは正確な説明ではなく、ポーター教授が本当に言いたかったのは、相対的な4つの象限で表される、極めて抽象的な市場定義と戦略の概念です(図1)。

広い市場を相手にする「総合」的なやり方と狭い市場を集中的に攻める「専門」的なやり方に大きく分かれ、それぞれの中でコスト・リーダーシップか差別化のいずれを競争優位とするかで戦略的打ち手が変わってくるというものです。
少し補足すると、対象とする市場の定義で全体の範囲が変わり、採用するフォーカス戦略によって上半分の「総合」と下半分の「集中」の境目の位置が変わり、対立する「コスト・リーダーシップ」と「差別化」の範囲や意味づけが変わってくるものです。その結果、4つの象限の内容もおのずと変わるものです。
要は「自分たちの強み(低コストか差別化か)を十分活かせるだけの範囲にフォーカスしなさいよ」という戦略的忠告なのですね。
■ポーター理論で考える、コンサルティング業界での競争優位性
この構図を組織コンサルティングの業界に当てはめた時に、質問者は「自社には模倣困難性がない等、競争優位の源泉が見つからない」と評されているのだと理解します(ちなみに模倣困難性がなくとも差別化可能なケースはありますが、それ以外の要素も検討されたと推定します)。
コンサルティング業界というのは一種不思議な業界です。
市場の定義次第ですが、ポーターの基本戦略で示すところの右上の「コスト・リーダーシップ」に位置する会社が思いつかないことがよくあります。そして、大手のプレイヤーの大半が左上の「差別化」を目指してブランド向上や技術的差別化の訴求に余念がありません。
弊社を含む中小・零細コンサル(「ブティックファーム」と呼ばれます)の多くは、左下の「差別化フォーカス」を標ぼうしていますが、実態として右下の「コストフォーカス」での競争優位に頼るところも少なくありません。
通常、コンサルティング業界ではこの「フォーカス」のあり方は、クライアントの業界、専門領域&テーマ(例えばITの中のSAP、人事の中の採用、戦略の中の新規事業といった具合)、地域(その範囲も世界から特定の市町村までピンキリです)といった複数の軸の組み合わせで行われます。
質問者はこうした「フォーカス」の検討を既にひと通りやった上でなお、同じようなフォーカスをしている競合と比べて「自分の会社は低コストオペレーションに特別優れている訳でもないし、かといって明確に差別化できる要素がある訳でもないし」と悩んでおられると理解します。

回答者は同じ経営コンサルティング業界に所属しているとはいえ、「組織コンサルティング」がどのようなオペレーションでなされているのかも、どんな差別化要素があるのかも存じませんので、「この要素をチェックしましたか?」と具体的に問いただすことはここではできません。
それでも敢えて申し上げます。改めて、ご自分で「自社ならではのフォーカスの仕方を徹底的に考えた上で、差別化か低コスト化の検討をし尽くしたか」という突き詰めを是非やってみてください。
私の経験では多くの企業が往々にして、自業界の主流となっている「フォーカス」軸でしか考えたことがありません。そのため本当に有効な「フォーカス」×「差別化」(場合によっては「低コスト・オペレーション」)の組み合わせを見逃していることは十分あり得ます。これはコンサルティング業界でも同様です。
質問者はVRIO分析に言及されていますが、この分析手法の課題は、先に競争優位の要素を仮定した上でそれをもたらす自社の経営資源について分析するという手順であることです。
つまり、業界であまり認識されていない競争優位の要素が仮に存在していても気づかないまま、ということがあり得るのです。
さて次に、仮にそうした作業までやった上で、やはりこの「コスト・リーダーシップor差別化」×「フォーカス」の切り口では競争優位の源泉が見つからないという結論になったとしましょう。その場合でも、まだ別の競争優位の可能性があります。
■もう一つの「競争優位」の可能性:トレーシー理論
コンサルティング業界に限らず、IT業界や人材採用支援業界、教育業界等々、競争が激しいとされている多くの業界で、低コストオペレーションの観点でも差別化の観点でも抜きん出ていなくとも、ずっと幾多の競合に伍しながら成長を続けている企業がいる例は幾つも見られます。
特にサービス業に多く見られる現象です。ユニークな「フォーカス」戦略のお陰とも決して言い難いもので、似たような範囲の商売を手掛けている複数企業が並立しています。
これは、ポーターの基本戦略論を信奉している人たちにとっては信じがたい(許しがたい?)状況ではないかと思います。でも現実なのです。
元MITビジネススクール教授で著名経営コンサルタントのマイケル・トレーシーとCSCインデックス社経営コンサルタントのフレッド・ウィアセーマの共著『ナンバーワン企業の法則』(日本経済新聞社)という本にとても興味深い概念が載っています。
すなわち「プロダクト・リーダーシップ」(ポーターの「差別化」に非常に近い概念)と「オペレーショナル・エクセレンス」(ポーターの「コスト・リーダーシップ」に非常に近い概念)以外に、「カスタマー・インティマシー」という基本戦略があると提示しているのです(図2)。

「カスタマー・インティマシー」とは(日本語にすると「顧客親密性」という却って分からない訳になりそうですが)、要は「誰よりも顧客のことをよく理解していて、とにかく気が利いて、顧客の痒いところに手が届く」という点を、強み(競争優位の源泉)にする戦略概念です(ここに「フォーカス」の概念を組み合わせると面白いのですが、それはここでは割愛します)。
この「カスタマー・インティマシー」の概念を知ってしまうと、先の「競争が激しいとされている業界で、低コストオペレーションの観点でも差別化の観点でも、大したことがなくとも、優秀な競合に伍しながら成長を続けている例が幾つも見られる」という(ポーター信者からは)不思議な現象の説明がつく、と私は思っています。
特に、サービス産業のように大小のプレイヤーが入り乱れている業界でそうした例が多いのも頷けます。
そうした業界で顧客が身近な事業者を選ぶ理由の大きな一つは、経営者や責任者が互いをよく知っていて、いちいち最初から自分たちの事情を説明しなくとも済むので手間が掛からず、しかも顧客が何を求めているかのツボを外さないでいてくれることを顧客が期待できるというものです。
これが「カスタマー・インティマシー」の力です。馴れ合いではなく合理的な選択なのです。

なぜこんな話をしているのでしょうか。そう、これがもしかすると質問者にとってのヒントになるかも知れないからです。
つまり、質問者におかれては、組織コンサルティングの分野で「カスタマー・インティマシー」を競争優位性とするような仕事のやり方がないだろうかと検討していただきたいのです。
具体的には、新規客の獲得に注力することを抑制し、既存クライアントの悩みや不安をもっと深掘りして訊くことで、サービスの幅を拡充し新しい案件を開拓できる可能性があるのではないでしょうか。
今までは「面倒だから」とか「既存のメニューにない」とかで無視していた困り事で、実は自社のコンサルタントなら解決できる方策がないだろうか。こうした視点で、クライアントの課題、それに対する解決法、そしてオペレーションの組み合わせを仮説ベースで構わないので洗い出し、それが本当にクライアントにとって意味を持つかを一つひとつ検証してみてください。
きっと新しいコンサルティングサービスの種が見つかると思います。
■ 弊社の経験:零細のコンサル会社がなぜ大手を凌駕できるのか?
「カスタマー・インティマシー」の可能性の追求をお薦めしましたが、質問者は「本当にコンサルティングの世界で適用できるのか?」と疑問に思われるかも知れません。でも可能性は十分に高いと思います。
その生きた証拠が弊社、パスファインダーズ社です。弊社は自慢ではありませんが、いわゆる零細企業です。羅針盤倶楽部という中小企業向けの研究会の事務局もしていますが、収益貢献はほとんどありません(むしろ持ち出しばかりです)。
売上の大半はごく少数の大手企業からの安定したリピートです。それで創業の翌年以来ずっと黒字と成長を続けることができています。しかもその過程では、毎年少なくとも1~2件、大手コンサル会社を排除する形で選ばれるプロジェクトが出ています。
実務上は大手コンサルを使うけど、監督役またはクライアント代理役で弊社が入る、という恰好のプロジェクトもほぼ毎年1件程度は発生していますし、大手コンサルでうまく行かなくなって結局弊社に駆け込んでくるというプロジェクトも2年に1~2度発生しています。
要は、クライアント企業にとって弊社は「カスタマー・インティマシー」の強みを持っており、他の大手・中小のコンサル会社に対し競争優位性を維持している訳です。
弊社ではクライアント企業に対し「選ばれる理由」という概念と手法を提唱していますが、弊社自身が「選ばれる理由」を突き詰めて考え抜いた結果、「カスタマー・インティマシー」こそがそれだという結論に至っているのです。
当然、最初からそうした強みを持つことは無理なので、実績と信用を段々と積み上げて、しかもそうしたクライアント企業の事業内容と課題はもちろん、風土や集団心理まで理解できるようになっています。
幹部の人となりを理解し、中堅の人たちと顔馴染みになり、コンサルティング手法にも「カスタマー・インティマシー」の優位性をさらに強化する仕組みを組み込んでいます(ここは公開どころか示唆すらできません)。
■お仕着せでない自社ならではの「競争優位」を探すべし
では、ここまでの話を整理しましょう。次の3点が主旨です。
ポーター理論をよく理解した上で、業界で主流となっているフォーカス軸ではなく、自社ならではのフォーカスの仕方を徹底して考えた上で、差別化か低コスト化の検討をし尽すべし。
サービス企業ならば、「コスト・リーダーシップor差別化」の切り口以外に、「カスタマー・インティマシー」という競争優位の可能性も追求すべし。
パスファインダーズ社は「カスタマー・インティマシー」の有効性の実証例である。
以上です。質問者にも独自の競争優位の追求をお願いしたいと思います。
文・日沖 博道(経営コンサルタント・パスファインダーズ株式会社 代表取締役社長)
※本記事は、The Owner「経営者のお悩み相談所 〜経営コンサルタントが一問一答!〜」に掲載された内容をもとに再構成したものです。
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