商品のネーミングのためにプロを雇うべきか?
- 羅針盤倶楽部 事務局

- 4 時間前
- 読了時間: 9分

【今回のご相談】
BtoC向けの有形商材です。
商品のネーミングを考える際は、ネーミングのプロを雇った方が良いでしょうか?

【日沖】
「プロを雇うべきか、自分たちで取り組むべきか」。
色々な場面で、こうした悩みを抱える経営者は少なくないでしょう。
今回は商品のネーミングという「センスが問われる」テーマ。まずはメリット・デメリットを考えてみましょう。
原則は「テーマと自社リソース次第」だが、迷う理由もそれなりに
質問者の業種が分からないのでこの場合の「商品」がどんなものか具体的には分からないのですが、「プロを雇うべきか」というのは「プロ人材を正社員で採用する」ことではなく、「外部の専門家に依頼すべきか」という意図だと考えます。
また、質問のニュアンスから、「従来は社内でネーミングしていたが(外れることが多いので)社外に頼んだほうがいいだろうか」という話ではなく、「今回初めて自社商品を出す(ので社内には専門家はいない)」という状況だと推察されます。
こうした「外部に依頼すべきか、自社内で何とかすべきか」という選択は経営学では
”Make or Buy” question という汎用的な研究テーマになっています。
部品を自製するか外注するかは(成功確率を含めて)どちらがトータルで安く済むかで考えるのがオーソドックスなのですが、専門家市場が成り立っているようなサービスについてだと、通常はその課題テーマ分野の経験者が社内にいれば優先的に社内で検討し、いなければ社外の専門家に頼むということが原則です。
要は「テーマと自社リソースが合致するかしないか」次第です。

しかし本件のような「商品ネーミング」という課題テーマに関しては、たとえ経験者が社内にいなくとも、ある程度迷うのがある意味当然なのです。
経営者が迷う理由は以下のように幾つかあります。
(1)「センスがものをいう」というのは分かっていても、もしかすると自社の従業員でもできるのではないか、とも思える(美大出身者などがいればなおさら。それに事実として、製薬会社の小林製薬のように自社内でネーミングを考えて成功している事例も少なくない)
(2)このあとも幾つか新商品を出していくなら、自社でネーミングを考えることができる人材を育てておいたほうが長い目で見ていいのでは、とも思える
(3)仮に社外の専門家に頼むとしても、その妥当な相場観が分からないのが普通(要は、初めてだとちょっとビビッてしまう)
いきなり判断しようと考えると迷うばかりだと思います。まずは、2つのオプションのメリットとデメリットを洗い出すことから始めることをお薦めします。
下表に、典型的に想定すべきものを挙げました(業界や個社の事情、または当該商品によってはこれ以外にも重要な要素があるかも知れません)。

「外部の専門家に依頼する」メリット
まずは「外部の専門家に依頼する」(典型的には広告代理店経由で広告制作会社もしくはデザイン会社に依頼)というオプションのメリットは何でしょう。

第一は、何といっても「ある一定水準以上の品質の案が提示される」ことです。
通常、複数案が提示され、クライアント(発注主)の経営陣に最終判断を求めます(実際には「お薦めは〇番です」という影の声が後ろから囁かれますが)。
実は、回答者(私)はクライアント経営者の立場で、共同出資者の1社でもあった大手広告代理店に消費者向けサービス(有形商材ではありません)のネーミングを依頼したことがあります。
素晴らしい出来映えのネーミング案が提示され、「さすが」と思ったものです(経営陣たる私たちも張り合って数案を考えていましたが、彼らの案を前に「撃沈」しました)。
彼らプロの提示案が一定以上の品質を担保されるのは、単に経験もあってセンスがいい人材が揃っているということだけではありません。そもそも素案出しの数が半端ではありません。膨大な候補素案から絞っていくので、自ずと品質は底上げされるのです。
第二に、彼らは、商品がどう展開されどんな場面で使用/利用されるのかまで考えて、そのパッケージングデザイン等と共にネーミング候補を絞っていきます。
なので、例えば小売店の店頭に他の商品と並んだときに消費者の目にどう映るか、広告宣伝された際にどういう印象を与えて記憶に残るかといった様々な要素を考慮してくれます(もちろん、どういったプロモーションを想定しているかをきちんと伝えておかないと、とんでもない食い違いが生じる恐れがあります)。
第三に、経験豊富な人たちがチェックするので、流通の人たちや消費者からクレームが出そうな「ちょっとアブナイ」案は最終的に残りません。そして本稿の最後に触れる「商標問題」もクリアした案に絞られてきます。
「外部の専門家に依頼する」デメリット
一方、外部依頼のデメリットも明らかです。
何といっても専門家に依頼するので、それなりのコストが掛かります。先に挙げた「経営者が迷う理由」の3つ目ですね。
ちなみに、このネーミング代(実際にはパッケージデザインと共にというケースも多い)の相場は端的に言うと、「あって無きが如し」です。
広告制作会社/デザイン会社の大小、実際に担当する人のクラス(経験年数や受賞などの箔付け次第)とチーム人数、どれくらいの素案から選ぶか(どれくらい手間をかけるか)、広告代理店を通すか否か、クライアント会社の規模と今後も発注してくれそうか否か、等々を反映するようです。要はこちらの要望をぶつけて相談してみないと分からないのです。
もう一つのデメリットは対案(「自社内で検討する」)のメリットの裏返しです(「経営者が迷う理由」の2つ目の裏返しでもあります)。すなわち「ノウハウが貯まらない」ので、その後も外部に依頼し続けないといけないというものです。
「自社内で検討する」のメリット
「自社内検討」の主なメリットは、上に挙げた「外部依頼」のデメリットの裏返しです。
すなわち、コストを抑制できる、自社内にノウハウが貯まる、の2点です。
それ以外に、素人ゆえの思い切って「攻めた」案が残ることが期待できます。(プロだと格好悪くて出せないような)適度にダサく、却って面白いものが出てくる場合もあります。

あと、敢えて付け加えれば、「自社内検討」の場合には「ネーミングを社内募集する」という手があって、その場合にはその商品への愛着を持ってくれる人が増えて社内が盛り上がって、販促方法などに面白いアイディアが出てくることがあります(ただし何度も使える手ではありません)。
「自社内で検討する」のデメリット
「自社内検討」の主なデメリットは、やはり既に出た「外部依頼」のメリットの裏返しです。
すなわち、
出てくる候補案の品質がバラバラ(そのため、最終的に決定する人たちのセンスに依存する)
パッケージングデザイン等と共に考えることが難しい(そのため、宣伝や流通時における埋没などのリスクがある)
「攻めた」アイディアであるがゆえに流通現場や消費者から反発を食うリスク、最終段階で他社の登録商標とバッティングしていてダメ出しを食らうリスクも、それぞれある
といったものです。
自社が何を重視すべきかで決まる
いかがでしょう。こうやって2つのオプションのメリット・デメリットを並べて比較することで、自社にとって「どの部分を重大とみるか」「どのリスクは覚悟できるのか」次第で自ずと決まってくるのではないでしょうか。
例えば、「新商品を今後もシリーズで出し続けたいのでノウハウを社内に貯めたい、そのために多少のもたつきやリスクは覚悟できる」というのであれば自社内で検討する(ただし素案出しを「担当者一人当たり100以上」などと高めのハードルを課すし、流通等での諸課題もあらかじめ洗い出させる)というのもアリでしょう。
逆に、「最終的に自信をもって決定するセンスが経営陣にない」という自覚を重視するのであれば、自社商品領域に実績のある専門会社を探して、綿密に相談しながらベストの案を決める(そして、結果がよければその後も同じ専門家の担当者に依頼し続ける)というやり方が妥当かも知れません。
忘れてはならないプロセスは商標登録のチェックと登録
最後に、いずれのオプションを選んでも忘れてはならないプロセスがあります。
それは商標登録のチェックと登録です(外部プロに依頼した場合、彼らがチェックしてくれるのが普通ですが、念のために「やってくれているよね?」と確認しましょう)。
同じカテゴリ(商品・サービス分野を特許庁が定めています)で似たようなネーミングや商標を先行して登録されている場合、せっかくグッドアイディアと思って採用した案もボツにせざるを得ません。
素案出しの段階では必要ありませんが、案を絞った段階では一旦既存の商標登録をチェックしたほうが無難でしょう。

素人には難しいし、どうせ登録手続きでお世話になるので、最終的には経験ある弁理士を抱えている特許事務所にお願いするのが一番安心です(長期的には自社のことを知悉する馴染みの事務所を確保するのがベストです)。
とはいえ何から何まで頼むとそれなりにコストも掛かります。自分たちでできることはやっておきましょう。
最終案が例えば10個以下になった時点で、既存の他社商品で同じネーミングがないか、検索して調べるくらいはすぐにできるはずです(検索結果だけでは商標登録されているかどうかは分かりませんが、既に使用されているかどうかは大体分かります)。大手企業が商品名に使用していたら十中八九、商標登録もされていてダメです。
また、経済産業省所管の「独立行政法人 工業所有権情報・研修館」が運営する特許情報プラットフォーム「J-PlatPat」というウェブサイトでは出願・登録されている商標を検索できます。ここで登録済商標と同じカテゴリでバッティングしていたら諦めるしかありません。
問題は、まったく同じネーミングではないけれど「ちょっと似ている」または「一部かぶっている」という場合です。ネーミングは似ていなくとも、ロゴデザインが似ている可能性もあります。これらは素人判断では分からないので、特許事務所に相談するのが妥当です。
メリット・デメリットを比較した上で、専門家の力をうまく使うことが肝要
ではここまでの話を整理しましょう。次の3点が主旨です。
まずは「外部の専門家に依頼する」のと「自社内で検討する」の2つのオプションのメリットとデメリットを自社なりに洗い出す。
それらのメリット・デメリットを並べて比較することで、自社にとって「どの部分を重大とみるか」「どのリスクは覚悟できるのか」をよく考えて、いずれのオプションが望ましいかを判断する。
いずれのオプションを選ぶにしても、商標登録のチェックと登録を忘れてはならない。その際、専門家の助けは必須。
以上です。貴社のご判断に役立てば幸いです。
文・日沖 博道(経営コンサルタント・パスファインダーズ株式会社 代表取締役社長)
※本記事は、The Owner「経営者のお悩み相談所 〜経営コンサルタントが一問一答!〜」に掲載された内容をもとに再構成したものです。
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